加速器の話

はじめに

この記事は物理学アドベントカレンダー 2014の9日目です。
昨日はでした。
明日もたぶん俺です。*1

高エネルギー物理学

第一回で、こういうことを書きました。

1929年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルは、我々の住むこの宇宙はだんだん膨張しているという事実を発見しました。
ということは、時間をどんどん遡っていくと、昔の宇宙は今よりずっと小さかったということになります。
その極限、すなわち、宇宙誕生の瞬間の状態を知ろうとするためには、ミクロの世界の科学である素粒子論からアプローチする必要があるというわけです。

また、前回は

この世界には4つの力がありますが、これらは、宇宙が誕生した直後は1つの力で、それから時間が経つに従って分かれてきたと言われています。
時間を巻き戻していけば、4つの力は一つの力に統一されます。
つまり、この世界を支配するすべての力を、4つの理論ではなく1つの理論で説明することができるのです。

とも言いました。
宇宙誕生の瞬間の様子を明らかにし、宇宙全体を記述するただ一つの法則を見つけ出すことが、現代物理学の究極目標の一つと言ってよいでしょう。

では、その瞬間の宇宙とは、どんな様子だったのか。
あまり多くのことはわかっていませんが、少なくとも確かなのは、今この宇宙にあるすべての物質すべてのエネルギーが、ある一点に集中していたということです。
ということは、その点は、超高温、超高圧、超高エネルギー状態だったと言えます。

そのような状態では何が起きるのか。
確かめるためには、人為的にそのような状態を作ってみなければなりません。
もちろん、完全には無理です。
全く同じ状態を再現するには、再び、宇宙の全物質と全エネルギーを一点に集めなければなりませんから。
ただ、その何十万分の一かであっても*2、手掛かりにはなります。

そうした高エネルギー領域を扱う物理学を、高エネルギー物理学と言います。
そして、そのために使用する装置が、粒子加速器です。

とある物理の一方通行粒子加速器アクセラレーター

加速器とは、電子や陽子などの荷電粒子を、膨大な電気エネルギーをつぎ込んで、光速の99%以上という超スピードに加速して、衝突させる装置です。
有名なものは、以下のようなものがあります。

大胆に言ってしまえば、世界最先端と言える規模・性能の加速器を建設し運用できる技術を持つのは、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本の3か国(ヨーロッパは共同利用ですが)くらいしかありません。
ただ、アメリカは最近、いまひとつパッとしません。
かつてはLHCの3倍もの規模の加速器を建設しようとしていましたが、お金がなくて頓挫しましたし、テバトロンもLHCが出来るまでは世界一だったのですが、こちらも財政難から2011年に運用を終了してしまいました。

加速器の用途

衝突実験

加速器利用の花形は、何と言っても衝突実験です。
光速の99%以上に加速した粒子同士を正面衝突させ、その時の膨大な衝突エネルギーから、新しい素粒子や原子が生まれるのを観察します。

放射光実験

加速器の中で粒子の軌道が曲がる時に光(X線)が出ます。これを放射光といいます。
衝突実験にとってはエネルギー損失をもたらす厄介な存在ですが、波長が短い、輝度が高い、指向性が高いなどの特徴を持つため、顕微鏡に利用されています。
現在では、KEKフォトンファクトリーや、理研SACLAなど、放射光を得ることを目的とした専用の加速器もあります。
フォトンファクトリーの放射光顕微鏡は、初代はやぶさが持ち帰った微粒子の観測にも利用されました。
ちなみにSACLAには播磨サクラという美少女キャラクターがいます。

放射線医療

がんの放射線治療には、従来はX線が使われてきましたが、X線は通過したところ全体を焼いてしまうため、がん組織だけでなく、周囲の正常な組織にもダメージを与えてしまう問題がありました。
そこで、X線の代わりに陽子や炭素原子などをぶつける重粒子線治療が開発されました。
X線と比べて、体の深部にあるがん病巣に選択的にダメージを与えることができるため、効率的で、正常組織の損傷が少なくて済みます。
この用途にも小型の加速器が用いられます。

加速器を見に行こう

4月末の科学技術週間には、日本各地の科学研究施設が施設見学を開催します。

日本の素粒子物理学の総本山であるつくばのKEKは、年に2回、4月と9月に施設の一般公開を行っています。
9月のイベントは加速器を停止してメンテナンスする*4期間中に開催されるので、4月よりも深いところまで見ることができます。

また、科学技術週間には、埼玉県和光市理化学研究所 仁科加速器研究センターや、SACLAがある兵庫のSPring-8も見学することができます。

未来の加速器

現在、(衝突実験の分野で)世界最高の加速器CERNLHCです。
2012年にヒッグス粒子を発見した後は一時停止し、パワーアップのための工事中です。運用再開は来年の予定です。
新生LHCでは、ヒッグス粒子のさらなる性質の解明と、超対称性粒子*5の発見が期待されています。

KEK加速器も、現在パワーアップ工事中です。完成した暁には、SuperKEKBという安直な名前になります。
単純なパワーではLHCに及びませんが、異なる目的に焦点を当てています。
こちらはそろそろ動き出すはずなのですが…今どうなっているのでしょうか。

ILC

そして、LHCの「次」を目指して研究されている次世代加速器が、国際リニアコライダー(ILC)です。
ヨーロッパはLHCにかかりきり、アメリカは財政難でテバトロンを閉鎖する始末ということで、日本に建設される可能性が高くなっています。*6

LHCもKEKBもテバトロンも、形状は円形加速器です。
円形のいいところは、加速したい粒子を、同じ場所を何回も周回させることで、少ない敷地面積で距離を稼ぐことができる点です。
デメリットもあります。
本来はまっすぐ飛ぶ粒子を、回転させるために曲げなければならないので、放射光という形でエネルギー損失が発生するのです。

そこで、ILCは直線状(Linear)の線形加速器という形態を取ります。LHCは全周27kmでしたが、ILCは全長30kmで、将来的には50kmに拡大される予定です。

LHCの問題点はもう一つあります。
それは、反応が雑だということです。

LHCは、陽子同士を衝突させる加速器です。
陽子を使う利点は、粒子が重いのでエネルギーが大きくなる点と、相対的に放射光のロスが少なくて済む点です。
しかし、陽子の中のアップクォークダウンクォークグルーオンが複雑に衝突反応を起こすため、雑音が多く、結果の分析が大変です。

一方のILCは、電子と陽電子*7を衝突させます。どちらも素粒子対消滅*8を起こすので、反応がとてもクリアで観測がしやすいというメリットがあります。
反面、電子で円形加速器にすると、放射光のロスが許容できません。
そのため、ILCは直線状なのです。

ILC シティ

もしILCが建設されれば、世界中から物理学の研究者が岩手県に集まってきます。
そうすると、研究機関だけでなく、彼ら研究者とその家族の生活を支えるための様々な施設が、ILCを中心として建設されることになります。
結果的に、ILCを中心として、新しい街が一つ出来上がることになります。
なんともワクワクする話です。
是非住んでみたいですね。

おわりに

物理学アドベントカレンダーは、寄稿して頂ける方を絶賛募集中です!
でも、仕事中に書くのはどうかと思います。

現在、6名の方にご協力いただいております。


物理学 Advent Calendar 2014 - Adventar

*1:何を書くか全然考えてません。そろそろしんどい。

*2:実際、現代の実験で扱えるのが、ビッグバンの何分の一なのかはわかりませんが…

*3:反応の起こりやすさみたいなものです。詳しくはこちら

*4:とにかく電気を食うので、特に東日本大震災以降、夏には動かせません

*5:そのうち採り上げます

*6:岩手県の北上山地が候補に挙がっています

*7:電子の反粒子。後でやります。

*8:粒子と反粒子が衝突して消滅し、エネルギーだけを出す現象