重力波の簡単な解説ー場の基礎から

更新をさぼっていて申し訳ないです。
素粒子カフェ等の告知さえできていない始末。

去る 2016 年 2 月 11 日、アメリカの LIGO重力波を検出したと発表し話題になりました。
日本でも神岡鉱山に建設された KAGRA も間もなく稼働開始するということで、重力波観測が本格化することが期待されます。

先日開催された物理講座で、重力波について教わってきましたので、それについて解説したいと思います。

まず「場」から

重力波の前に、まずは身近な電磁波から、そして電磁波を理解するために「場」から解説していきます。

「場」とは、広い意味で言えば、「その中にあるモノに何らかの影響を与える空間」だと思ってください。
例えば、あなたがある部屋に入ったところ、その部屋はとても蒸し暑くて汗をかいてしまったとします。
この時、この部屋は、その中にいるあなたに影響を与えたので、ある種の「場」です。

もうちょっと物理学的な例を出しましょう。
ある箱の中に磁石があります。この箱に小さな鉄の球を入れたところ、磁石に吸い寄せられました。
この箱は、中に入れた鉄球に影響を与えたので「場」です。
ここには「磁場」があり、鉄球は磁石からの「磁力」を受けて吸い寄せられたということはわかりますよね。

磁場の話が出てきたので、対になる「電場」の話をします。
電場とは、電荷を持った粒子を動かそうとする「場」です。
電荷とは、電気を持ったモノくらいに思っておいてください。
例えば電子とか陽子とかクォークとか……が電荷を持ちます。「電荷」と言えば、そういう粒子の総称のようなものです。

2 つの電荷が近くにあると、これらはお互いに力を及ぼし合います。
電荷にはプラスとマイナスがあります。
プラスの電荷とマイナスの電荷の間には引き付けあう力が働きます。
プラス同士、マイナス同士の電荷には反発する力が働きます。
磁石でも同じですね。N 極と S 極は引き合い、N 極同士、S 極同士は反発します。

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電場と磁場は根っこが同じですので、一緒にして「電磁場」と呼びます。
電荷同士に働く力も、磁石に働く力(磁力)もまとめて「電磁気力」と言います。

電磁気力は(磁力以外にも)身近なところで見ることができます。
例えば静電気。
小学校の頃にやりましたよね。プラスチックの下敷きをこすって、頭の上に乗せると、髪の毛が立ち上がります。
これは、下敷きがマイナスの電荷、髪の毛がプラスの電荷を持つために起こる現象です。

ここでちょっと見方を変えて、一方の電荷を「自分の電荷」と考えてみます。
そして、他方の電荷を隠してしまいましょう。

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そこに何があるかは一旦知らないものとして、自分の電荷が、そこに近づいたところ、力を受けたと考えます。
これはつまり、そこに「電場」があるからに他なりません。
電荷は電場を生むわけです。

このような力は、「大きさ」と「向き」を持つので、数学的には「ベクトル」と言います(対して、大きさしか持たない量を「スカラー」と言います)。
同じ大きさのベクトルでも、向きが違えば異なるベクトルです。
電荷が 2 つの場合、電磁気力は、お互いの電荷を結ぶ直線方向に発生します。
つまり、電荷の位置関係によって、発生する力の向きが変わります。
ちなみに力の大きさは、お互いの電荷の大きさと距離によって決まります。
もちろん、電荷が 3 つ、4 つと増えていけば、発生する力の向きと大きさはより複雑になっていきます。
一旦、自分以外の電荷を隠して「場」という形にしてしまえば、自分の電荷が受ける力は、以下の要素によって決まることになります。

  • 自分の電荷の位置
  • 自分の電荷の大きさ
  • 場の性質

このような、電荷から生まれる電場は、その電荷が変化しない限り、変化することはありません。
同じ場に、今日入っても明日入っても、受ける力は同じなのです。
このような電場を「静電場」と呼びます。
対義語を敢えて挙げるならば「動電場」なのですが、こう呼ぶことはあまりありません。
ともかく、静電場の反対であるような電場も実はあります。
どういう電場かというと、その場から受ける力の大きさが、時々刻々変化するような場です。
実は電場には複数の種類があって、先に見てきたような電荷から発生する静電場の他にも、電荷が無くても発生する電場もあるのです。

このような変化する電場では、自分の電荷が受ける力は、以下の 4 つの要素で決まります。

  • 自分の電荷の位置
  • 自分の電荷の大きさ
  • 場の性質
  • 現在の時刻

そして、自分の電荷の位置と大きさは固定したうえで、時刻を横軸に、受ける力の大きさを縦軸に取ってグラフを書くと、こうなります。

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「波」の形をしていますよね。
これが「電磁波」なのです。

このグラフは、縦軸も横軸も空間座標ではないということに注意してください。
これは、空間中のある一点での出来事です。

電磁波

まとめましょう。

電荷に力を与える空間のことを「電場」と呼びます。
電場には、電荷の周囲に発生し、時刻とともに変化しない「静電場」もありますが、電荷がないところにも発生し、時々刻々変化する電場もあります。
この変化の仕方をグラフにしたものが「電磁波」です。
電磁波とは、何かが波打ちながら飛んでいるのではなく、「空間のある一点に電荷を置いた場合、その電荷が受けるであろう力の大きさ(の変化)を、波という形で表現したもの」なのです。

ご存じの方もいるかもしれませんが、我々が普段「光」と呼ぶ可視光も、紫外線も赤外線も、テレビやラジオの電波も、病院で使うエックス線も、波長が違うだけですべて電磁波です。
例えば、照明を点けたら、そこから光が飛んできたとしましょう。
これは、照明が、照明と我々とを結ぶ空間上の電磁波の波長を、可視光に変化させたということを意味します。
照明が光(電磁波)を生み出しているのではありません。電磁波はモノではなく、空間の性質だからです。
テレビやラジオが映像や音を受信できるのは、放送局から何かが飛んできているからではありません。
放送局とアンテナの間の空間の電磁波の波形を変化させているだけです。
そのような電磁波がアンテナに当たると、アンテナの金属の中の電荷が力を受けて動かされます。それによってアンテナに電流が発生し、電気信号となるのです。

重力

重力についても、電磁気の場合とほぼ同じことが言えます。

我々が地球にひっついているのは、地球から発生する重力に引っ張られているからです。
電荷の周りに電場が生じるように、地球という質量物体の周りには重力場が発生しています。
これは時間とともに変化しない静的な重力場で、これを発見したのがニュートンです。

そして、電磁波と同じように、質量物体がないところにも、動的な重力場があります
つまり、空間のある一点に質量物体を置いたとき、その物体が受ける重力は、実は時々刻々変化しているのです。
この変化の様子を表現したものが「重力波」で、発見したのはアインシュタインです。

我々が受けている重力とは、このように変化する重力と、地球によって生じる万有引力が合成されたものです。
しかし、動的な重力は、静的な万有引力に比べて、あまりに弱いので、体感できないのです。

今回、LIGO は、地球から 13 億光年離れた 2 つのブラックホールの衝突から生じた重力波を観測しました。
こういう現象が起きないと重力波が発生しないわけではないのです。
重力波自体は空間が持つ性質なので、どこにでも存在しています。
ただし、こういう大規模なイベントによって増幅されないと、観測できないほどに小さいのです。
照明や放送局が電磁波を生み出しているのではなく、空間にもともと備わっている電磁波を揺さぶっているだけなのと同じように、ブラックホールの衝突が、空間にもともと備わっている重力波を揺さぶった結果、観測できる程度に増幅されたわけです。

従って今回、ブラックホールの衝突から発せられた重力波は、それを浴びた物体の重さをわずかに変化させました。
しかし、重さの一瞬の変化を精度よく観測するのは困難です。
そこで、アインシュタイン一般相対性理論の「重力が変化すると、空間の長さが変わる」という理論に基づいて、センサーの長さの変化を観測したのです。

重力波天文学

今回の LIGO の観測成果によって、重力波天文学が幕を開けました。
これまで、主に電磁波によって観測されていた天文学に、新しい武器が加わったのです。
これによって、電磁波では観測できなかったものが見えるようになるのではないかと期待されています。
例えば今回のような連星の合体の様子や、遠方の天体までの正確な距離、あるいは超新星爆発の詳細なプロセスなどが観測できるのではないかと期待されているようです。

しかし、あまり重力波万能説を唱えるのもよろしくないのかもしれません。

宇宙論に詳しい方は聞いたことがあるかもしれませんが、大昔の宇宙には「宇宙の晴れ上がり」という現象がありました。
詳細は省きますが、電磁波で観測できるのは、その「晴れ上がり」より後に起きたことだけなのです。
それ以前の、言わば「曇っていた」宇宙空間を、電磁波は直進することができなかったからです。
一方、重力波は、曇った宇宙空間でもお構いなしに伝わります。
そこで、重力波を使えば晴れ上がり以前の様子が観測できるのではないか、と思います。

あるいは、超弦理論の分野では、「ブレーン宇宙論」という理論が研究されています。
我々の住むこの 4 次元宇宙(空間 3 次元+時間 1 次元)の「外側」には、より高次元の空間が広がっているのではないか、そして、その空間には、我々の宇宙とは別の宇宙が浮かんでいるのではないか、とする理論です。
電磁気力などの力は、この 4 次元宇宙(ブレーン)から離れることはできないのですが、重力だけは例外的に、複数のブレーンの間を行き来することができるのではないかと言われています。
つまり、重力を使った通信が可能になれば、「他の宇宙」との交信ができるかもしれないわけです。

しかしながら、今回 LIGO は重力波だけを捉えたわけではありません。
前後して発生したガンマ線バーストという現象も観測されています(ガンマ線は電磁波です)。
つまり、重力波ガンマ線の合わせ技によって、その重力波がノイズではなく、ブラックホールの衝突によるものであるという確信を深めたわけです。
しかし、晴れ上がり前の様子や、他の宇宙の様子を見るのには、電磁波が使えません。
もちろん、可能性としてゼロではなく、精力的に研究してほしい分野ではありますが、重力波一本での観測が可能になるのは、まだまだ先のことになるでしょう。