はじめに
この記事は物理学アドベントカレンダー 2014の10日目です。
昨日は俺でした。
明日もたぶん俺です。
昨日の記事のILCのところで、ILCは電子と陽電子を衝突させる加速器だと書きました。
陽電子というのは、電子の反粒子のことです。
今回のテーマは反粒子です。
反粒子
反粒子とは、粒子と符号が反対の物理量を持つ粒子です。わけがわかりませんね。
これはあくまでイメージですが、普通の粒子が正の粒子なら、反粒子は負の粒子です。
「粒子」という言葉が、「正の粒子」という意味で使われる場合と、正も負も含んだ「粒状のもの」という意味で使われる場合があるので、混乱しますね。
例えば電子と陽電子であれば、電荷の符号が反対です。電子はマイナスの電荷、陽電子はプラスの電荷を持ちます。*1
それから、電子はボソン編でちらっと出てきた弱価も持っているので、陽電子ではその符号も反対になっているはずです。*2
ただし、質量は同じです。マイナスの質量というのはありませんからね。
2倍の粒子
電子と陽電子だけでなく、ほぼすべての素粒子には、対になる反粒子が存在します。
アップクォークには反アップクォーク、ダウンクォークには反ダウンクォーク、ミュー粒子には反ミュー粒子、タウ粒子には反タウ粒子。
ゲージ粒子には反粒子を持つものは多くありません。
光子、グルーオン、重力子には反粒子がありません。粒子と反粒子が同一なのです。
例外はウィークボソンです。ウィークボソンには、正の電荷を持つW+粒子、負の電荷を持つW-粒子、電荷を持たないZ粒子の3種類がありますが、W+粒子の反粒子がW-粒子になります。Z粒子の反粒子はZ粒子自身です。
要するに、これまで見てきた素粒子、特にフェルミオン 12 種類には、すべて反粒子があるということになります。粒子の数が一気に 2 倍です。
クォーク編で、こんなことを言いました。
1960年代までは、陽子と中性子が素粒子であると考えられていました。
しかし当時、物理学の観測技術が飛躍的に発展する中で、陽子と中性子によく似た粒子(ハドロン)が大量に発見されました。
そのため、物理学者たちは「この世界を構成する根本たる粒子がこんなに何種類も存在するはずはない。もっと少数の基本粒子からなる、シンプルな体系があるはずだ」と考え、より基本的な粒子を探し始めました。
が、どうも、現時点で素粒子だと考えられている粒子も、結構数が多いんじゃないか、と思います。
後で採り上げますが、さらに超対称性という理論が導入されると、さらに倍に増えます。
そんなに多くていいんでしょうか、素粒子。
ニュートリノと反ニュートリノ
反粒子という観点から見ると、ニュートリノも奇妙な粒子です。
ニュートリノは電荷を持たない粒子ですが、反粒子はあります。
ニュートリノは、ベータ崩壊という、ダウンクォークがアップクォークに変身する現象から予言された粒子ですが、ベータ崩壊の際に出るのは、厳密には「反電子ニュートリノ」です。
それを踏まえたうえで。
果たして、ニュートリノが「マヨラナ粒子」かどうか、というのが、大きな注目を集めている課題です。
マヨラナ粒子というのは、イタリアの物理学者エットーレ・マヨラナが提唱した説で、これも粒子と反粒子が同一であるような粒子のことだそうです。
もしニュートリノがマヨラナ粒子であるなら、反ニュートリノがニュートリノと同じように振る舞うという現象が確認されるはずで、これが観測できると、ニュートリノの質量の解明に一歩近づくのだとか。
すいません、このあたりはちょっと調査不足です。機会があったら改めて採り上げたいと思います。
対消滅
電子と陽電子のように、対になる粒子と反粒子が衝突すると、「対消滅(ついしょうめつ)」という現象が起きます。
これは、衝突した粒子が消滅して、後にエネルギーが光となって発せられるという現象です。
ILCはこれを起こす装置です。
もっとも、対消滅というのは特別な現象ではありません。
見え方が違うだけで、対生成も対消滅も崩壊も、根っこは同じルールによる現象です。
この辺は、機会があれば改めてやりたいと思います。
余談:エヴァのアレ
さんざん既出ネタではあると思うのですが。定番なので一応。
エヴァに出てきた、こーいうしと
をブチ抜くのに、ポジトロンライフルという武器を使いましたよね。日本中の電力を集めて。
ポジトロンというのは陽電子のことです。つまり、アレで発射しているのは陽電子ビーム。
で、あんなもんをぶっ放すとどうなるか。
陽電子は電子と対消滅をします。電子はそこらじゅうにあります。空気の中にも、酸素原子や窒素原子の周りに電子はありますよね。
そのため、実際にはあんなビームは飛んで行きません。
トリガーを引いた瞬間、銃口のあたりがものすごくまばゆく輝くでしょう。銃身が吹っ飛ぶかもしれませんね。
ともかく、周囲にまき散らされるのは放射線(ガンマ線=高エネルギーの光)です。周りで見ている人たちもただでは済みません。
粒子と反粒子の非対称性
粒子と反粒子がぶつかると、対消滅して消えてしまいます。
一方で、粒子と反粒子がペアで生成される対生成という現象もあります。
この宇宙が生まれ、素粒子が生まれたとき、粒子と反粒子は対生成によって、同じ数だけ生まれたと考えられています。
そして、同じ数だけ生まれたペアは、すぐに対消滅して消えてしまいます。
消えても何も無くなってしまうわけではなく、粒子がエネルギーに変わります。そしてそのエネルギーから、また粒子が対生成されます。
そうやって、粒子と反粒子の数が常に同じであれば、宇宙は素粒子の対生成と対消滅を繰り返すだけの空間であったかもしれません。
しかし、現在の宇宙はそうではありません。明らかに粒子が優勢であり、反粒子は自然界には(ほとんど)存在しません。
つまり、どこかのタイミングでバランスが崩れ、粒子の数の方がわずかに多くなったのです。その割合は、10億分の2だったと言われています。
つまり、反粒子10億個に対して、粒子が10億飛んで2個できたということです。
そして、10億個の粒子は対消滅で消えてしまい、残りの2個に相当するのが、我々が観測している、この粒子ばかりの世界だというわけです。
気の遠くなるスケールの話ですね。