はじめに
まだだ…! まだ 12/7 は終わってない…!!またこれか…
この記事は物理学アドベントカレンダー 2014の7日目です。
昨日は@aki_n1waさんの「Lagrangian coherent structures入門」でした。
明日は@tanaka_733さんです。
ボソン
前々回はクォーク、前回はレプトンについて説明しました。
この二つをまとめて「フェルミ粒子(フェルミオン)」と言います。
フェルミオンというのは、素粒子全体を2つのグループに分けたときの片方の名前です。
今回やるのはもう片方、「ボース粒子(ボソン)」です。*1
ちなみに、フェルミオンはイタリアの物理学者エンリコ・フェルミ、ボソンはインドの物理学者サティエンドラ・ボースの名前にちなんでいます。
さて、今回はボソン編とは言いつつも、実質的にはゲージ粒子編です。
ゲージ粒子というのはボソンの一種で、一般的には「力を伝える粒子」と言われます。
つまり、ボソンにはゲージ粒子と、そうでないボソンがあるわけなのですが、では「ボソンとは一体何なのか」という定義は難しいし面白くもないので、今回は割愛します。
なお、ゲージ粒子でないボソンの代表格は、みんな大好きヒッグス粒子です。
4つの力
いきなりですが、この世界には4つの力に支配されています。
地、水、火、風の4大…というファンタジーな話ではなく、れっきとした物理学のお話です。
その4つの力というのは
- 電磁気力
- 重力
- 弱い力
- 強い力
です。
これらをまとめて基本相互作用と言います。
これらのうち、我々の目に物理現象として見えるのは、電磁気力と重力だけです。
電磁気力というのは、電気や磁力を帯びた粒子が引きつけあったり反発しあったり、磁場内で電気が流れる物体に力が働いたり(モーターの原理)、磁場内をコイルが動くと電流が発生したり(発電機の原理)する現象のことです。フレミングの左手の法則、学校でやりましたね。*2
磁石がくっつくのを見れば、離れた距離を磁力(電磁気力)が伝わるということは、なんとなくわかります。
重力は言わずと知れていますね。
我々を地球につなぎとめている力。
地球を太陽につなぎとめている力。
太陽を銀河系につなぎとめている力。
宇宙で一番スケールの大きな力が重力です。
残りの二つ、強い力と弱い力は、電磁気力と重力に比べて、伝わる距離がとても短いんです。
原子サイズのスケールでしか作用しません。
そのため、我々の目に直接触れることはまずありません。
ちなみに、「強い力」と「弱い力」という何ともセンスのないネーミングですが、「強い力」は電磁気力より強いから、「弱い力」は電磁気力より弱いから、このように命名されています。
強い力
プラスの電気とマイナスの電気を持つものは引きつけあいます。プラス同士、マイナス同士は反発しあいます。
電子はマイナス、陽子はプラスですから、電子と陽子がくっついて原子になっているのは電磁気力の作用です。
一方、陽子同士はプラスなので、反発します。中性子は電気を帯びていないので、電磁気力的には、引き合いもしないし反発もしません。
では、原子核は何故バラバラになってしまわないのでしょうか?
これは、電磁気力の反発力を上回る力でつなぎとめられているからです。
陽子と中性子を結びつけているのが「強い力」です。核子同士を結び付ける力なので「核力」とも言います。
より根本的には、強い力はクォーク同士を結び付ける力でもあります。
クォークには「色」と呼ばれる概念があります。
光の三原色になぞらえて「赤」「青」「緑」の3色で表されます(実際にクォークがそのような色をしているわけではありません)。
クォークには6つの種類がありましたね。
それぞれの種類ごとに、固有の質量と電荷が決まっています。
色*3は、種類ごとには決まっていません。
すべての種類に、すべての色の組み合わせがあります。
つまり、赤いアップクォーク、赤いダウンクォーク、赤いチャームクォーク、赤いストレンジクォーク、赤いトップクォーク、赤いボトムクォークがあります。
同様に、青いアップクォーク、青いダウンクォーク、(以下略)があり、緑の(以下略)があります。
クォークの回で掲載した画像にも、3つの色がありますね。
ちなみに、陽子や中性子の中では、3つのクォークがそれぞれ赤、青、緑を1色ずつ持っています。この状態を「白」と言います。光の三原色では、赤、青、緑を混ぜると白になりますね。
電気は、プラスとマイナスが合わさると中性になります。同様に色も、白は中性の状態です。ですから、陽子や中性子は色を持ちません。
力と物理量
強い力は、色を持つ粒子間に働く力です。
他の力も、粒子が何らかの特性を持っていないと働きません。
電磁気力は、電荷を持つ粒子に。
重力は、質量を持つ粒子に。
弱い力は、これまで説明していませんが、「弱価」という物理量を持つ粒子に働きます。
一覧にしてみましょう。
粒子 | 電荷 | 質量 | 色価 | 弱価 |
---|---|---|---|---|
クォーク | あり | あり | あり | あり |
電子、ミュー粒子、タウ粒子 | あり | あり | なし | あり |
ニュートリノ | なし | あり | なし | あり |
ニュートリノは電荷を持たないので電磁気力の影響を受けません。電場や磁場の中でも曲がって飛んだりしません。
レプトンは色を持ちません。そのため、レプトンには強い力は働きません。
クォークや陽子を、電磁気力の反発に逆らってくっつけるのが強い力ですから、電子やニュートリノは固まって大きな粒子になったりはしないのです。
つまり、天体などのマクロサイズの物質を構成することができるのは強い力が働く粒子だけで、それは今のところ、クォークだけです。
ゲージ粒子
さて、ここまで、ゲージ粒子の説明が全然出てきていません。大丈夫かこのペースで。
ゲージ粒子は、力を伝える粒子と言いました。
4つの力には、それぞれ対応するゲージ粒子があって、力を及ぼしあっている粒子間では、ゲージ粒子が交換されている(と、計算上は考えることができる)のです。
力 | ゲージ粒子 | 電荷 | 質量 | 色価 | 弱価 |
---|---|---|---|---|---|
電磁気力 | 光子(フォトン)(γ) | なし | なし | なし | なし |
強い力 | グルーオン (g) | なし | なし | あり | なし |
弱い力 | ウィークボソン (W±、Z) | あり*5 | あり | なし | あり |
重力 | 重力子(グラビトン) (G) | なし | なし | なし | なし |
クォーク間をつなぎとめているのはグルーオンという素粒子です。
強い力がごく短距離しか伝わらないのは、グルーオンの飛距離が短いからです。
なぜ飛距離が短いかというと、グルーオン自身も色価を持っているため、強い力に縛られてしまうからです。*6
グルーオンも色を持ちますが、クォークのように単純ではありません。
クォークは赤、青、緑を単色で持ちますが、グルーオンは複数の色が混ざっています。
3色の組み合わせで8種類あると言われるのですが、どういう混ざり方をしているのかよくわかりません。*7
また、8種類それぞれにも、クォークのように固有の名前は無いようです。
弱い力はウィークボソンという粒子が媒介します。
これも、ごく短距離でしか伝わらない力です。ウィークボソンの飛距離が短いためです。
しかし、ウィークボソンは色を持たないので、飛距離が短い理由はグルーオンとは異なります。
ウィークボソンは、4種類のゲージ粒子の中で、唯一、質量を持つ粒子です。それも、素粒子の中ではだいぶ重い部類に入ります。飛距離が短いのはそのためです。
ウィークボソンには、プラスの電荷を持つもの、マイナスの電荷を持つもの、電荷を持たない中性のものの3種類があります。
それぞれ記号では、W+、W-、Zで表します。
光子というのは光の粒子です。
我々が日頃からお世話になっている可視光も、赤外線も紫外線も、電波も、エックス線も、みんな波長が違うだけで電磁波の一種ですが、この電磁波=光は、光子という素粒子の集まりでもあります。
光子は色も質量も持ちませんので、光速で、無限に遠くまで伝わります。
同様に、重力は重力子という粒子が伝えると考えられています。
しかし、重力子はまだ未発見です。
前回、標準模型について簡単に触れました。
2012年に見つかったヒッグス粒子が、標準模型の最後の粒子でした。
では重力子は?
実は重力子は、標準理論の枠組みの外にある粒子なのです。
統一理論
重力を説明するのは、アインシュタインが作り上げた一般相対性理論です。
一般相対性理論と量子力学は、現代物理学を支える2本の柱ですが、この2つの理論を統合することに、人類はまだ成功していません。
一般相対性理論を量子力学の枠組みで書き直したものを「量子重力理論」と言います。重力子は量子重力理論で出てくる粒子です。
この世界には4つの力がありますが、これらは、宇宙が誕生した直後は1つの力で、それから時間が経つに従って分かれてきたと言われています。
時間を巻き戻していけば、4つの力は一つの力に統一されます。
つまり、この世界を支配するすべての力を、4つの理論ではなく1つの理論で説明することができるのです。
クォーク編で言ったことを覚えているでしょうか。
物理学者というのは、世界を記述する、よりシンプルで美しい法則を探すことを目標としているのです。ロマンです。
まず、1つの力がありました。
そこから最初に、重力が独立したと言われています。
次に強い力が分かれ、最後に弱い力と電磁気力が分かれました。
物理学はこの時間の流れを逆にたどり、すべての力の理論を再び統一することを目指しています。これを統一理論と言います。
今のところ、電磁気力と弱い力の統一には成功しました。電弱統一理論とか、ワインバーグ・サラム理論と言います。
現在は強い力との統合を目指して研究が進んでいます。強い力まで統一したものを大統一理論と言います。
さらに重力まで統一したものは、万物の理論などと呼ばれます。
弱い力は?
弱い力についてはほとんど説明してきませんでしたね。
これは、「粒子の種類を変える力」です。
他の3つの力はいずれも、何らかの粒子を引っ張ったり遠ざけたりする力なのですが、弱い力だけは違います。そのため、ちょっとわかりにくい力です。
ベータ崩壊という現象がありますが、これを起こすのが弱い力です。
ベータ崩壊というのは、中性子が陽子に変身する現象です。この時、ベータ線という放射線を出すことから、その名がつきました。
ちなみに、ベータ線の正体は、高速で飛ぶ電子です。
クォーク編でやりましたが、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個、陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個で出来ています。
つまりベータ崩壊とは、ダウンクォークがアップクォークに変わる現象なのです。
弱い力については、また機会を改めて書きたいと思います。
第5の力
今のところまったく未解明なのですが、実はこの世界には第5の力があると言われています。
素粒子に質量を与えるのはヒッグス粒子ですが、これは、素粒子がヒッグス粒子から何らかの力を受けているということを意味します。
この力は、これまでに説明した4つの力のいずれでもありません。
ひょっとすると、まだ他にも力の種類があるかもしれませんね。
おわりに
いやすいません。昨日(12/6)中に書いてしまえばいいものを、日がな一日ゴロゴロしていて、夕方頃になって慌てて用事を消化しだす始末。
今日は今日とて脱出ゲームに行ったり脱出ゲームに行ったりで、すっかりブログのことなど忘れておりました。
なお、物理学アドベントカレンダーは、寄稿して頂ける方を絶賛募集中です!
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