素粒子超入門 (2) レプトン編

はじめに

まだだ…! まだ 12/4 は終わってない…!!28時くらいまで…

この記事は物理学アドベントカレンダー 2014の4日目です。
昨日はでした。
明日は @tanaka_733 先生の「寒剤(液体窒素、液体ヘリウム)について」です。*1

あ、記事中、人名がたくさん出てきますが、敬称は省略させて頂いております。ご了承ください。

レプトン

昨日はクォークの紹介をしました。今日はクォークと対をなす素粒子レプトンです。ギリシャ語で「軽い」という意味があるらしいです。

クォークは全部で6種類あり、2種類ずつ3世代ありましたね。
レプトンも同じです。

第一世代 第二世代 第三世代
電子 (e-) ミュー粒子 (μ) タウ粒子 (τ)
電子ニュートリノ (νe) ミューニュートリノ (νμ) タウニュートリノ (ντ)

昨日ちらっと出てきた電子も、レプトンの一種です。
クォークレプトンを合わせて「フェルミ粒子 (フェルミオン)」と言います。

レプトンの歴史

こちらも歴史をざっとおさらいしてみましょう。

1897年
イギリスの物理学者、J・J・トムソンが、電子が電気を帯びた粒子であることを発見
1906年
J・J・トムソンがノーベル物理学賞を受賞
1930年
スイスの物理学者ウォルフガング・パウリニュートリノの存在を予言
1936年
アメリカの物理学者カール・アンダーソンセス・ネッダーマイヤー宇宙線の中にミュー粒子を発見
電子と併せて「レプトン」という概念が確立される
1940年代
ミューニュートリノの存在が提唱される
1956年
アメリカの物理学者フレデリック・ライネスクライド・カワンが電子ニュートリノを発見
1962年
アメリカの物理学者レオン・レーダーマンらがミューニュートリノを発見
日本の物理学者坂田昌一牧二郎中川昌美によってニュートリノ振動の理論が発表される。
1975年
アメリカの物理学者マーティン・パールタウ粒子を発見
タウニュートリノの存在が預言される
1995年
ライネスとパールがノーベル物理学賞を受賞
1998年
日本のスーパーカミオカンデニュートリノ振動を実証
2000年
アメリカのフェルミ研究所で行われたDONUTプロジェクトでタウニュートリノが発見される
2004年
日本のT2K実験が、ニュートリノに質量があることを確認

すごいですねー。

何がすごいって、クォークの歴史は50年くらいでしたが、こちらは100年の歴史があること。
最後の粒子は2000年代に発見されているんですね。

レプトン電荷

クォーク電荷は +2/3 とか -1/3 とか妙な数字になっていましたが、レプトン電荷はシンプルです。
ミュー粒子とタウ粒子は電子の仲間なので -1 の電荷を持ちます。ニュートリノ電荷を持ちません。

電荷を持たないニュートリノ

電荷を持たないということは、電気に反応しないということ。これは、すごく観測しづらいということでもあります。
そのためスーパーカミオカンデなんかは、膨大な水を用意して、ニュートリノが反応するのを待ち構えているんですね。*2
しかし、ニュートリノ自体はありふれた粒子です。

例えば、我々の手が机を通り抜けてしまわないのは何故でしょうか? 足が地面に沈んでしまわないのは何故でしょうか?
手も机も原子で出来ています。原子の周りには電子があります。
手と机が接している時、これらの電子同士が反発しているから、手と机は混ざってしまわないんです。

しかし、ニュートリノ電荷を持っていません。そのため、原子にぶつかっても反発せず、すり抜けてしまいます。

ニュートリノの質量

現在、素粒子論は標準模型という理論が主流です。
2012年にヒッグス粒子が発見されたときは大きな話題になりました。ヒッグス粒子は、標準理論が存在を予言しつつも、実験によって発見されていなかった、最後の素粒子でした。
ヒッグス粒子の発見をもって、標準理論は完成を見たといって良いでしょう。

しかし、標準理論は非常にうまくできた(実験結果をうまく説明できる)理論ですが、完璧な理論ではありません。
標準理論を超える理論はいくつも提唱され、精力的に研究が進んでいます。

標準理論をはみ出す現象の一つが、ニュートリノの質量です。
標準理論は、ニュートリノの質量がゼロであると予言します。

しかしニュートリノには、飛んでいる間にその種類が変わってしまうニュートリノ振動という現象が起きます。
ニュートリノ振動は、ニュートリノに(ゼロでない)質量がないと起きない現象らしいのです。

しかし、質量はゼロではないということはわかっても、具体的にどのくらいなのかはわかっていません。
ただ、ものすごく小さいということはわかっています。それも観測がしづらい要因の一つです。

ニュートリノの質量に関しては、もう一つの問題があります。

前回、クォークには6種類あると言いました。レプトンにも6種類あり、併せて計12種類のフェルミオンがあります。
そして、例えば、アップクォークの質量はいくつ、電子の質量はいくつ…というように、粒子の種類ごとに質量ははっきりしています。――ニュートリノを除いては。
ニュートリノに関しては、電子ニュートリノの質量がいくつ、ミューニュートリノの質量がいくつ…ということは、言えないかもしれません。これは、小さすぎて精度のいい観測が難しいからという以前の、理論的な話です。

素粒子のようなミクロの領域の物理は、量子力学というわけのわからない理論で記述されます。
量子力学の根幹をなす重要な理論の一つに、不確定性原理というのがあります。
簡単に言うと、不確定性原理とは、互いに関連する2つの値を精度よく調べることはできず、必ずある程度の誤差を含むこと、しかも、2つの値の一方の精度を上げると、もう一方の精度が下がってしまうという関係のことです。
これは、観測装置や技術の限界から来るものではなく、量子力学の本質的な性質です。
つまり、たとえ神様であったとしても、不確定性関係にある2つの値の両方をはっきりと知ることはできないのです。

そして、ニュートリノの種類と質量というのも、不確定性関係にあります。
ある粒子が「電子ニュートリノだ」とわかるということは、種類が誤差なく判定できたということです。この時、質量の値は、ぼやけてしまってわからなくなってしまいます。*3
逆に、質量の値がはっきりと計測できたとすると、今度は種類がわからなくなってしまう。
繰り返しますが、これは人間の観測技術が未熟であるからではなくて、ニュートリノが本質的にそういう性質を持っているからなのです。

おわりに

レプトン編というかニュートリノ編になってしまいました。
ニュートリノにはまだまだ不思議な性質があります(反粒子の問題とか)が、いい加減書き上げないと寝られないので、この辺で終わりにしておきます。

この記事は12/4に書かれました。いいですね?
そういえばニュートリノの速度が光速を超えて、タイムトラベルが可能になるかも…なんていうニュースもありましたね。計測誤差でしたが。

次回は力を伝える粒子、ボソン編です。

なお、物理学アドベントカレンダーは、寄稿して頂ける方を絶賛募集中です!

現在、6名の方にご協力いただいております(また一人増えました! ありがとー!)。


物理学 Advent Calendar 2014 - Adventar

*1:翌日の記事に追い越されているように見えるのは、時空が歪んでいるせいです。つまりはアインシュタインが悪い。

*2:本来は陽子崩壊を観測するための施設ですが

*3:確率的にしかわかりません。質量が◯◯である確率は何%、△△である確率は何%…という具合に